白井京月の研究室

経済学・社会学・政治学

インフルエンサーの条件

 

20年以上前の話だ。木下玲子氏の「インフルエンシャル―影響力の王国」を読んで衝撃を受けた。世界はローズ奨学金で学んだ超エリート達によって完全に支配されていることを知った。資本は若い才能を必死になって探し、買う。まだそれが可能な時代だった。しかしいま、SNSの登場によって、影響力の構造が大きく変化している。

昔は、インフルエンサー(影響力の強い人)になるにはマスメディアの力が必要だった。有名人だけが影響力を持っていた。しかし、いまはネットで生まれ、ネット上だけでインフルエンサーになる怪物が登場する時代になった。また、同じ有名人でも発言する人、しない人、出来ない人に分かれ、しかも影響力の大きさはネット上で数値で評価されるようになっている。

孫正義ホリエモンのような有名人ではないのに、ネットでインフルエンサーになった人物として思い浮かぶのは次の3人だ。「ちきりん」さん、「きっこのブログ」さん、「Pha」さん。え、誰それ、一人も知らないという人はまずいないだろう。それぞれの特性を見ることで、インフルエンサーの条件が見えてくるかもしれない。簡単に整理、分析してみよう。

ちきりんさん。元大手コンサルティングファーム勤務。顔は出していない。当初はブログで私は物書きで食うつもりは無いと言っていたが、今はバンバン本を出している。最大の特長は「概念構築力」と「プレゼンテーション力」である。新しい社会、新し生き方を提唱して若者から大きな支持を得ている。

きっこのブログさん。正体不明。徹底的な権力批判が売りである。特徴は「情報取集力」。本当に一人なのか、なぜ消されないのかという疑問もある。いったい、どうやって生活しているのか。まったく謎だ。

Phaさん。京大卒。公務員を辞めてセミ・ニートとして生活している。確か、日本一のニートを目指すと語っていたような。この人の売りは「生き様」だ。上昇志向を否定して、ゆるく生きることに共感する若者は多い。

概念構築力、プレゼンテーション力、情報収集力、生き様、と4つの要素が見えてきた。マーケティング的にはポジショニングとターゲットなども指摘できるが、それよりも「伝えることへの熱さと、内容の明確さ」の方が本質的だろう。

インフルエンサーになることは目的ではない。そうではなく、「伝えたい事実や考え方をうまく伝えること」が目的なのだ。この3人の場合、人気が欲しい、金が欲しい、評価が欲しい、というのは一番の動機ではないように見える。世の中を変えたい。時代背景もあるのだろう、日本には、そういう強い思いを持つ若者が増えているようだ。なお、若者とは35歳以下を想定している。(ちきりんさんは若者ではないが・・・)

もちろん、若者といっても価値観も、考え方も、ビジョンも、立ち位置も異なる。そんなビジョンとはほぼ無関係に世界は変わって行く。俺は浅薄なビジョンで旗を立てて皆の衆を集め先頭を歩くようなタイプではない。(なになに、タイプではなく能力でしょう、って。確かにそういう見方もあるね。)ただね、日本のOSをバージョンアップすることは必要なんだ。俺はこれからも、SNSと関わり続けるよ。多分ね。