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19.進化経済学の視座

「経済変動の進化理論」(慶應大学出版会、2007)という「進化経済学」の入門書を読んだ。以下はその簡単なメモである。
経済学を「進化理論」として捉えることの必要性とは何ななのか。それは、正統派経済学における経済変動の取り扱いが不適切であるということだ。正統派経済学の教義は、利潤の最大化と均衡にあると言えるが、その仮定が問題に満ちていることは誰もが知っている。現在の日本の大学における教養としての経済学講義は公務員試験対策に過ぎず、学問的にはほとんど価値がないというのが実態なのだが、そのような経済学が正統派とされ一般社会で<力>を持っているということもまた事実である。
本書では、進化理論の必要性から、現在の正統派の経済理論を再検討するとともに、いろいろな成長理論についての検討がなされて行く。ここで重要なファクターとなるのは、技術変化であり、イノベーションだ。この考え方は、シュンペーター的なものであり、第5部では、シュンペーター的競争に関する考察にあてられている。(シュンペーターの経済学は進化経済学の系譜の中で重要な位置を占めている)
第6部は、第15章「進化理論的視点による規範的経済学」と、第16章「公共政策の進化と理論の役割」から成る。本書の真の独自性が現れるているのは、この第6部だろう。厚生経済学は、異なる二つの目を持つ。一つは資源配分の選択であり、もう一つが組織に関する問題だ。配分の問題は最適化という言葉で定式化されるが、アローとハーンによれば、以下ような証明になってしまう。

配分と分配の問題として定義された経済問題に対して、次のような仮定をおいてみよう。選好と生産の集合は凸性であり、また、すべての財は私有され、完全な契約がコストなしで締結されかつ守られる。そして民間企業は利潤を、民間の家計は効用を、正しく計算して最大化できる。これらの仮定のもとで、現在の厚生経済学の二つの定理が得られる。
いかなる競争的な均衡もパレート最適であり、いかなるパレート最適な配分も適切な所得移転を行えば競争的均衡として達成される。(p.411)

ここで注意すべき点は、配分の議論と、組織の議論という異なる領域があるということだ。核心は、競争であるとともに組織的選択であるという点に留意することが重要だと筆者は主張する。

経済学の伝統が競争の利点について抱いてきた長い関心を、現代の厚生経済学の定理とそのまま同一視するのは明らかに過剰な単純化である。(p.416)

そして、筆者は配分問題の本質を新しい選択肢の探索にあるとみなしている。
筆者の主張を簡単に要約すると以下の通りだ。
 1.自由市場を主張する人々の議論は安易に過ぎる。
 2.政府が上手く機能すれば問題は解決できるという発想は安易に過ぎる。
 3.現実の複雑な問題に対し、一般的な公式をあてはめることは誤りである。
言い方を変えれば、進化経済学は主流派経済学が現実の各種政策を支配することに対して警鐘を鳴らしているのである。では、本書「経済変動の進化理論」のコンセプトは何なのだろうか。それは以下の3点だ。
 1.組織のルーティンに注目すること。
 2.「探索」という概念を用いて、ルーティンを評価、修正する組織行動に注目すること。
 3.組織の淘汰の環境に注目すること。
重要なのは、個々の企業の運命ではなく、同一の遺伝子を持つルーティンの運命だという。このルーティンの変動こそが、経済変動であり、経済進化の本質なのである。
現在、世界中で加速度的に経済変動が起きている。それはまさに、現在が経済進化の時期、経済進化の最中であることを示している。しかし、この経済進化が何をもたらし、世界がどう変わるのかについては誰もそれを知らない。それとも、世界の支配階級は、すでに何かを計画しているのだろうか?