愚者の役割

「愚者の役割」 白井京月

 

中世ヨーロッパの宮廷には道化師がいた

いまも国王の宮殿には道化師がいるし、占い師もいるのだろう

しかし、それは秘密とされている

 

タロットカードでは愚者とは道化師のことだ

ウエイト版では崖の先端に立つ少年と

そこが危険であることを告げる犬が描かれている

無邪気であること

それは道化師の本性の一つだ


愚者とは何か

それは常に世界の外部に置かれる者、そして世界を知る者だ

あらゆる権力、あらゆる権威にとって、それは脅威であり邪魔者だ

愚者は道化という手法を用い笑いを味方にする

愚者はその霊的な力で真実を見抜く

そして無邪気に危険な真実を語る


 賢者は世俗に服従し真実を語らない

いや、賢者とは真実を見ようとはしない者のことだ

 

愚者は見る

いまでは失われようとしている、見るという行為の力を発揮する

愚者は自由に想像し、創造する

愚者は悲しい世界の中で、まだ見ぬ愚者を求めて旅するのだ

 

近代合理主義によって失われたもの

その最大なものが想像力だ

小人も妖精もフィクションとされ

宇宙の万物が科学によって説明できるという教義が世界を支配している

この考えかたが科学という名の宗教だ

 

私たちは悲しい時代を生きているのではないのか

豊かさという名の矮小化空間に幽閉されているのではないか

 

宮廷道化師は真実を語ることを許されていた

王を笑わせることはもちろん

王を笑うこともまた許されていた

 

王は賢明だった

自らが完全ではないことを知っていた

そしてまた、自らを笑うだけの器量があった

 

果たして現代のリーダーたちに道化師を許容するだけの器量があるのか

合理主義の外側にある想像力を楽しむ力があるのか

 

お笑いという世界がある

しかし、いまのお笑いはメディアという権力に支配されている

いくつものタブーを持っている

そこには道化師がいない

そこには愚者がいない

 

芸人は権力構造の一部となり自由がない

これは市民にとって不幸なだけではなく

権力や権威にとってのリスクでもある

つまり、自らの過ちに気がつくことがないのだ

 

いまの時代に愚者として生きることは命懸けだ

私も若い頃は土俵際の道化師などと嘯いていた

しかし、いまは道化を失い、ただの愚者になってしまった

笑がとれなくなった

 

失われたユーモアを取り戻せ

それは愚者の基本ではないか

 

愚者はいくらでもいる

そこから、卓越した道化師へと成長しなくてはいけない

世界は切実に道化師を求めている