白井京月の研究室

経済学・社会学・政治学

宇宙人会議2013(5.宇宙交流パネル)

5.宇宙交流パネル

定刻の午後1時半を過ぎているのに、壇上には誰もいない。司会者が忙しく事務局の席の周辺を往来している。会場はにわかにざわついた。午後1時40分になって、ようやく6人のパネリストが壇上に座った。

「遅くなってすいません。基調講演の内容について少々もめまして。私が座長のラーマです。よろしくお願いします」

40過ぎだろうか。頭には毛がないが顏は若い。日本のいわゆる和服を着ているが、明らかに日本人ではなさそうだ。誰もがカジュアルな格好をしている中でその姿は目立った。目立つというよりも、ある種の異様な空気を醸していた。

「ここにいらっしゃるのは、アセニア星人とアセニア星人とヒトから生まれたハイブリッドです。最近、ピルシキ星人が頻繁に地球に来ています。彼らの宇宙船はUFOとして有名です。彼らが最近ヒトに寄生している例が急増しています。もちろん、われわれがやったのと同様に高次の意識体として入り込んでいるのです」

「宇宙倫理規定に照らして、私たちは戦うことはしません。しかし、われわれとピルシキ星人は立場も意見も異なります。私たちはピルシキ星人との対話の場を求めているのですが、彼らは条件を出しています。それが、人類の歴史、つまり地球での宇宙人の歴史についての大衆へのディスクロージャー、開示なのです」

「彼らはヒトに高次の意識の存在を知らせ、対等な関係、対等な宇宙人にしたいと考えています。しかし、私たちはあくまでもヒトを文明の道具として活用したい。それこそが、私たちが遺伝子操作でヒトを作った目的なのですからね」

「いまや、ピルシキ星人は勝手にディスクロージャーを開始しています。もっとも、政府や科学研究機関はそんなものは認めない。しかし、リアリティがあるので、というよりもリアルなので、漏れた情報を信じる人は多い。こういう人たちが、どんどんとピルシキ星人ヒトとなって、文明から離脱して行く。その勢いは驚異的です」

「つまり、われわれは決断を迫られているのです。ディスクロージャーをして対話の席を作るのか、対話を拒否するかです。この情報をこの会議で話すかどうか、揉めました。しかしもう、話をせざるを得ないと判断しました」

サルゴン議長が壇上に現れた。

「この件について意見のある方は、どうぞ壇上にお上がりください」

場内がどよめく。ケリーがヒロのところに来た。一緒に壇上に行こうと誘う。ヒロはその勢いに押された。

壇上には、ラーマ氏とサルゴン議長、ヒロとケリー、それにヴェーダ博士とホノニニギ博士が上がった。

「ほかの方々はよろしいですか?」

サルゴン議長はそう言うと自らの意見を述べ始めた。

「私は今すぐに、ピルシキ星人と話し合うべきだと思います。それには彼らの要求に、つまり実態開示に応じるしか手はありません。このままでは地球の文明が危ういと感じます」

「私は反対だ。ディスクロージャーなどしたら人類が混乱してしまう。磁気嵐は私の力で防いでみせる。この話には乗らない方が良い」

ヴェーダ博士は強い口調でサルゴン議長の意見に反対した。

「話し合いなんてする必要ないよ。して何になるのか。いったいどういう交渉をするつもりなのか。意味がないと思う。ピルシキ星人は宇宙倫理規定に則っている。たしかにヒトはアセニア星人が作ったけれど、所有権はないのだよ。ルールの中でピルシキ星人は好きにすれば良い。話し合いで何かが前に進むとは思えない」

ケリーはピルシキ星人との対話に反対した。

「私はサルゴン議長に賛成ですよ。何といっても、かれらには技術と知恵がある。今こそ、お互いが協力するべきでしょう」

ホノニニギ博士はサルゴン議長の意見に賛成のようだ。

「私はピルシキ星人の考えを知ることが、今一番重要なことだと思います。彼らの狙いは、この地球をピルシキ星人の星にすることではないでしょうか。本当にヒトを知的生命体に格上げしようと考えているようには私には思えない。重要なのは、純粋種ヒトは私たちの遺伝子操作によって生まれた生物だということです。それを知的生命体に格上げさせるなど、その方が宇宙倫理規定上問題だ。しかし、ディスクロージャーという前提はネックです。また、何をどこまで公開するのか、私には判断できない。これは難題です」

ラーマ氏はそう言って大きく頭を抱えた。

 

「ヒロさんは、いかがかな」

サルゴン議長に指名されてヒロは焦った。汗だくだった。しかし、率直に語るしかないと思った。ケリーと目があった。ヒロは訥々と話だした。

「私は今回が初の出席で、宇宙人の定義も知らなければ、宇宙倫理規定も知りません。昨日まで、私は自分のことを純粋にヒトだと思っていました。まあ、地球も宇宙の一部なので、地球人も宇宙人かなと思い、また本当に宇宙人と会えるのかなという興味もあって参加しただけのことです。ただ、人類が奴隷や家畜として見られていることを知り、とてもガッカリしています。私には高次の意識を持つ宇宙人だという意識がありません。ですから、地球人も真実を知ったうえで、宇宙における知的生命体の仲間入りをして欲しい。私はそう思います」

サルゴン議長が再び口を開いた。

「私は逆に、今のヒトはとても知的ではないと考えている。金儲けと快楽しか考えない連中が支配する社会だ。ハイブリッドにしても、真に高次の意識と繋がっているものは少ない。それどころか、高い能力で金儲けを始める輩が多い。ヒトは平等というのは法の下での話だ。現実は玉石混交にして石ばかり。ヒトのどこが知的生命体なのだ。ヒトを一括りにして話をしても意味が無いというのが私の見解だ。そして、国連ディスクロージャーを行うことで、ピルシキ星人との会議の場を持つ条件を整えよう。これが今日ここで採決すべき最重要議案だ。イエスかノー。多数決で決めれば良い。さあ、今から投票だ」

「ちょっと待って下さい」

ケリーが口をはさんだ。

「私たちは各自の主張を述べ合っただけで会議などしていませんよ。ここで一時間だけ時間をください。みなさんに十分、考えていただくということでどうでしょうか」

「いいだろう。これから休憩として、一時間後に投票に入る」

サルゴン議長がそう言うと、休会となった。