白井京月の研究室

経済学・社会学・政治学

社会変化の方程式

「文明の接近」で有名なトッドは、識字率が上がると、出生率が下がり、近代化(民主主義革命)が始まるというシーケンスを証明した。彼はソビエトの崩壊を、そしてアラブ革命を予言した学者として注目されている人物だ。

トッドはまた、家族システムが社会構造を規定するという理論を発表している。詳しくは書かないが、家族型とは以下の8つである。

1.外婚型共同体家族
2.内婚型共同体家族
3.非対称型共同体家族
4.権威主義家族(直系家族)
5.平等主義核家族
6.絶対核家族
7.アノミー家族
8.アフリカ・システム

トッドは日本を権威主義家族に分類しているが、私見では、近年の日本では家族が大きく変容している。これは必然的に大きな社会構造の変化につながると考えて良い。自民党がどう頑張っても、日本は絶対核家族化する。そこにある価値は自由であり、政府は自由孤立主義へと向かうというのが定説だ。

もちろん、変数は「家族型」だけではない。グローバル化した現代ではインターネット普及率、バイリンガル比率なども重要な変数になるだろう。もちろん、相対貧困率、高齢化比率なども重要だ。

トッドに従うならば、思想や哲学、あるいは宗教は大きな要素ではないということになる。また、経済すらも最重要の要素ではないのだと。もちろん、トッドはグローバル経済を貧困への道として否定し、保護貿易主義を主張しているのだが。

家族システムおよび社会構造は、その国の国民の意識構造として固定されている側面があることは否めない。いまの日本では、国民の意識構造にいくつもの大きな断層がある。この断層は必ず動く。ただ、いつ動くかを予測できないだけだ。

もちろん、安倍首相が「意思の力」を発揮すればするほど、この断層が動く時期が近づくことは明らかだ。現在の課題は断層についての調査だ。それは思想などではなく、貧困であり、世代であり、地域であり、階層であり、学歴であり、ネットワークであり、いろいろだ。表面化するいくつもの対立が、どのように表層化し、どのような化学変化が起きるのか。

社会変化の方程式が発見できるならば、そこには制御可能変数を見つけることが可能かもしれない。歴史は意思で動くものではない。しかし、意思の力が作用する局面があることも事実だ。

時代は「バイラル(感染)マーケティング」である。これは政治においても同様のことだ。感染してはいけない。しかし、この技法を封印する必要はない。戦いに卑怯も糞もない。君子、豹変す。