白井京月の研究室

経済学・社会学・政治学

闇の法の受刑者

「闇の法の受刑者」 白井京月

知的障害者を可哀想と言った知人に
それは失礼だと怒ったことがある
しかし、今
私は可哀相だと思ってもらいたい
私の辛さを感じて欲しい
弱くなったのか
素直になったのか

闇の法の受刑者となり
闇の中を生きている
自由がない
通信も、移動も、消費も、仕事も制限される
罪のない受刑者は
生きているとは言えない状況の中で
隔離されている
またの名をセーフティネット
またの名を精神科医

無法地帯に落ちたのだ
ただ、足を滑らせただけ
闇の刑務所の実態など
表に出るはずもない

刑を終えても
刻印は残る
世界は一変する

いつか誰かが書くだろう
今はまだ、誰も書けない
世界に戻るまでは
誰かが世界に戻るまでは

涙は奇跡を起こすだろうか

川を流れながら

「川を流れながら」 白井京月

ひとつの歴史にこだわってはいけない
川がいくつもあるように
僕たちは同じ川にいるようでいないようで

僕たちは同じ世界にいるようでいないようで

だから身体は一つだけれど
脳は物理で語れない
不思議だ脳

さあ、走ろう
さあ、服を着替えて
さあ、靴を履いて外に出て
さあ、さあ、さあ、ジャパン

ゴールで待っているのは誰
シャンパンは冷やしておいてね
一口だけじゃ嫌だからね
インタビューはそれからにしてね

歴史はいくつもあるというのに
一つだと思い込んでいた私

ああ、バカバカしい
どうでも良いことなんだよ
どうでも良くないんだよ

一つの歴史だとしても
見る角度はいろいろで
みんな全然ちがう景色を見ている
みんな全然ちがう世界を見ている

だから、だから、身体
なにかを共有したいから
物理的に身体だから
だから、だから、身体

川を流れながら身体
だから川を流れながら

プール

「プール」 白井月

完全なる覚醒を求めていた
過剰なメタファーの海を泳ぎながら
そこが海ではなく
巨大なプールであったことを知る

プールサイドに咲くビーチパラソルの花
ハイビスカスの花
いたるところに転がっているロゴス

プールの底は珊瑚のようなものでできていた
商品のような男たちの笑顔
この時代にありがちな甘い笑顔に
嘔吐を感じる

市場でいう人間的なものと
私のいう人間的なものは
まったく無関係で
なんの接点も関係もないようだ
そういう関係にあるという言い回しを除いては

水面から顔を出すと
そこには汚染されている空気があった

太陽はどうやらまだ商品化されていないようだ

プールを出ると
小麦色に焼けた肌の、サングラスをかけた女性がいた
よく見るとマネキンだった

マルチーズが洋服を着て歩いていた
すべてを中和するような音楽が流れていた
私は映画の中にいるのだと思った
それは、現実よりも少しだけリアリティがあった

そんな夢を通勤電車の中で見た
そして電車の中でこのメモを書いた
その電車に、プールはなかった

欲望地図

「欲望地図」 白井京月

 

欲望

この二文字の深さと重さ

人生というのか

生活というのか

人の欲望は多種多様だ

俺は雲丹を欲望するが、あいつは雲丹を食べない

俺は名声が欲しくてしかたないが、あいつは無名で平気だ

満たされた欲望と

満たされない欲望

宗教家は欲望を捨てろと言うのか

そうではない

自らの欲望について丁寧に洗い出し

深く考えるのだ

深く感じるのだ

そして、欲望地図を作る

何を捨て、何を妥協するのか

そうすると本筋の欲望が見えてくる

意味?

欲望こそ意味だ

それ以外に何がある

飼いならした欲望が暴れ出す時もある

欲望が泡のように消える時もある

人間は欲望の質と深さで測られる

欲望を生きよ

汝、欲望を知れ

深く瞑想して、欲望地図を作れ

まあ、怠惰という欲望もある

さあ、横になって瞑想しよう

何日も、何日も、欲望を調べ尽くそう

欲望地図は人生の羅針盤