一枚岩の「理想の組織」こそ失敗しやすい

いま読んでいるのは「経営戦略全史」(三谷宏治著)だ。これがとても面白い。フリーの哲学者である俺と経営戦略がどう関係するのか。それは、俺の研究テーマが「社会と組織そして個人の関係」にあるからだ。テーマが壮大なので体系的に整理しようなどという馬鹿げた野心はない。いくつかの考察をまとめるのが目標といったところだ。 この本を読んでいると経営戦略とやらがいかに成功しないかということが良くわかる。もちろん先人の多大な苦労も、学問的成果もあるのだが、高級な戦略を使ったからといって成功率は高くないのだ。だのになぜ、多くの大企業が有名コンサルティング・ファームを使うかというと、経営幹部が失敗した時の言い訳を作っているようなものじゃないのかな。「われわれは最高のコンサルタントと共にベストを尽くした」と言いたいのだと。 コンサルティング業界は頻繁に新しいコンセプトを開発し「これからはこれです」というキャンペーンを打つ。そして、「他社がやるならうちでも」という発想で大企業はすぐにこれに飛びつく。だが、そういう企業が飛躍いたという話はあまり聞かない。 この本では経営学者間の議論が面白おかしく書かれている。経営戦略を歴史的に網羅したマジメな本だし、経営戦略の進歩や、具体的な内容も簡潔に整理されているが、そこは矛盾や対立に溢れている。むしろ、偉大な経営者が常識や忠告を無視して成功した事例の方が気になる。 前置きが長くなったが、21世紀になり経営環境は激変した。もはや、過去の理論は使えない。そんなところに登場したのが、社会学者ダンカン・ワッツだ。彼は「偶然の科学」の中で、「歴史から答えは学べない」」と主張したのである。「過去から学ばない。結果だけで見ない。自分で自分を評価しない」これが基本なのだと言う。なかなか大胆だ。 本書は、野中郁次郎の「失敗の本質」や軍事組織論にも触れており「一枚岩の理想の組織こそ失敗しやすい」ことを強調する。トップダウンが駄目でボトムアップが良いなどという単純な話ではない。重要なのは、現場からの情報を迅速に得て、そこから戦略を修正して行くことなのだ。 話が長くなったが、経営戦略などどうでも良い。重要なことは、経営だけでなく社会もまた、歴史からは学べなくなっているということだ。市民が簡単に情報発信でき、国家もまたネットワーク化している。軍事技術も過去と比較できないものになっている。 「世界はひとつ」というスローガンが私は嫌いだ。「国境なき世界」などと聞くと頭痛がする。地域には地域の文化と伝統がある。それが経済的合理性のもとに破壊されようとしている。地理的であれ、非地理的であれ、社会は多様であることが好ましいし、現実として社会は多元的でしかあり得ない。世界の覇権もまた、多元的であるべきだと俺は考えている。 民主主義が有効なのは、それがローカルな場合においてのみだ。「安定のために、世界は一枚岩であるべきだ」という反知性的スローガンを葬る必要があるということだな。