白井京月の研究室

経済学・社会学・政治学

考えたら負け

クラブでの会話

「今度、ご飯たべに行こ」

「いや、俺には妻も子供もいるし」

「そんなん考えたら負けや」

は。考えたら負け。なんだそれ。俺は40年以上、考えて生きてきたのだ。それを、考えたら負けだって? カッコいい。同伴してやろうじゃないか。

 

それからの俺は持ち金のすべてを使って遊び、会社を辞め、研究所を設立した。

 

本を出版し、イベントを行い、SNSについての取材を受け、前途洋洋のはずが、大事件が起きて運命が変わった。

 

その後も研究は続けた。研究のテーマはニートだった。反労働、反雇用の思想に染まっていた。スポットでコンサルの仕事もしたが、安定した収入にはならなかった。

 

「考えたら負け」

あの女は悪女だ。そして、悪女は可愛いと相場は決まっている。だいたい、研究者が考えないとは何事か。ニート研究など金にならないだろ。研究対象からやり直しだ。

 

文明の文法を解体すると、金になるのかね。なる。先行者利得という奴がある。利益は大事だ。漫然とブログを書くのは得策ではない。助成金を狙え。顧客を獲得せよ。気晴らしもほどほどに。

 

「生きることを考えてください」

もう、そういう段階なのだ。考えなかった結果がこれか。恨み節か。無意味だぞ。

 

だから俺はこれから、自分の研究所の事業を見直すことにした。食っていける研究所を作る。スモール・ウインだ。

 

それにしても、反労働、反雇用って何だ? アナーキストか? ずいぶん凄いものを背負い投げたな。あとは解剖学か、それとも組織論か。生きることばかり考えていると息が詰まるぞ。遊ぼう。